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ぜんっぜん

 全然と云う言葉が本来否定形を伴うべきことは誰でも知っている。しかし今日のように肯定否定問わず単なる強調詞として使われ出したのは、そんなに新しいことでもない。もう20年以上も昔に少しく気になって、古い辞書をひっくり返してみたことがあるが、終戦直後の国語辞典には既にこの用法が記載されていた。昭和初期の辞書は生憎と検べられなかったものの、大正の字引には肯定時の用法は載っていない。だから恐らくはこの頃、大正デモクラシーなんかに乗っかって言葉も民主主義化したものと思っていたところ、大正8年のとある高名な歴史学者の謹話の中に、肯定文の強調で用いられているのを見つけてしまった。当時の若者ならばいざ知らず、幕藩時代生まれの老学徒である。とあればもうこの時代、全然の用法は現今と同じであったと考えても良いだろう。何しろこの学者、皇孫殿下の御学問所御用掛まで務めたほどの人物であり、先の文章はその迪宮殿下成年式の折に発表されたものなのだ。金田一秀穂の言葉を引くまでもなく、言葉は常に変容し進化する。何も新奇な使い方を発明する必要もないが、殊、全然については否定形を伴えと目くじら立てる真似なんかしなくても、全然良いじゃないか。
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Contax II + Sonnar 2/5cm. Tri X
by y_takanasi | 2009-05-20 20:25 | Sonnar2/50


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